世界三大デザイン賞のひとつとして知られる「iFデザインアワード」
デザイン界のオスカーとも呼ばれ、ドイツのiF International Forum Designにより1953年に設立され、 優れたデザインの証として国際的に最も権威ある賞とされています。
そのiFデザインアワードを受賞したのが、『スキップテラスのある家』です。
住宅の前後には道路や遊歩道があり、常に人の気配を感じる敷地条件。
一般的には「視線が気になる土地」と捉えられがちな環境ですが、この住まいではその条件を弱点ではなく魅力へと転換する設計が行われました。
テーマは、「プライベートな開放感」。
開放感はある。けれど視線は遮る。
カーテンに頼らず心地よく暮らせる住まいを実現しています。
今回、この住宅の設計についてウィンウィンホームさんのYouTubeチャンネル「建築ザムライ語り部屋」で取り上げていただき、建築へのこだわりや空間づくりの考え方について一級建築士である桐生 和典が解説しています。
本記事では、その動画の中で触れられていた設計のポイントや住まいの魅力を、コラムとしてあらためて整理しました。
ぜひ最後までご覧ください。
外観 — “桐生グレー”がつくる、木なのにモダンな表情

メインファサードは、国産杉にブルーグレーの着色を施した外壁。
さらに塗り壁も特注色。素材の質感を活かしたツートンの構成としています。
この配色は現在、K.DESIGN HOUSEの住まいの中でも特に選ばれることの多い組み合わせです。
なぜグレーなのか。

木は経年変化により、やがてグレーへと変わります。
ならば、最初からグレーのトーンを設計に取り込むことで、美しい外観を長く保つことができるのではないか。
その考えから、この住まいではグレーで塗装を施しています。
木でありながらコンクリートのような表情を見せる外観は、モダンな佇まいを生み出しています。
この独特の色合いは新潟では「桐生グレー」と呼ばれ、外観を見るだけでK.DESIGN HOUSEの住まいと分かる象徴的な意匠です。
玄関から水回りへ続く“帰宅動線”
整った玄関をつくる、収納計画の工夫

壁面いっぱいに設けた収納によって視界に物が入らず、すっきりとした印象を保てるようにしています。
収納を床から浮かせているのも特徴のひとつです。
新潟のように雪が降る地域では、濡れたブーツや雪の付いた履物を扱う機会が多くあります。
床との間に空間を設けることで、そうした履物も無理なく置くことができ、掃除もしやすくなります。
地域の気候に合わせた設計上の配慮です。
扉を開けると“すぐ手を洗える家”

玄関から室内に入ってすぐの位置には洗面を配置。
これはコロナ禍をきっかけに要性があらためて意識されるようになった、「帰宅したらまず手を洗う」という動作を自然に続くように考えた間取りです。
多くの住宅では洗面室と脱衣室が一体ですが、この住まいでは分けています。
理由は使いやすさにあります。
家族の誰かが入浴中でも、帰宅した人は気兼ねなく手を洗えます。
来客が洗面を使う場合も、脱衣室のプライバシーが守られます。
日常の小さな不便や気遣いを減らすための設計です。
浴室も“家全体の色計画”の一部

浴室は1.25坪と広めの設計で、浴室の壁にはブラックを選んでいます。
外観の“桐生グレー”との相性を考え、家全体の色の流れがここで途切れないようにしています。
水回りは機能だけで選ばれがちですが、この住まいでは空間としての統一感も重視しています。
玄関から浴室に至るまで、色・素材・光のトーンが連続し、住まい全体の世界観が自然に保たれます。
リビング・ダイニング・キッチン — 暮らしの中心にある“視線と高さ”の設計

この住まいの魅力は、面積の広さではなく空間の質にあります。
その質を形づくっているのが、視線のコントロールと高さの操作です。
視線を切り、景色を取り込むリビング

リビング前のテラスは、地盤から約80cm持ち上げています。
低すぎれば通行人の視線を防ぎきれず、高すぎれば外の景色が途切れてしまう。
その両方を検討したうえで、導き出したのが、この80cmです。
この高さによって、室内からは街路樹と空だけが切り取られ、通行人の視線は自然に遮られます。
開放感がありながら、覗かれる感覚がない。
住まいのコンセプトである「プライベートな開放感」を象徴する設計です。
天井高は3m。
80cmの立ち上がりと2.2mのサッシを組み合わせ、縦方向にも伸びやかな広がりを生んでいます。
ソファは造作とし、スキップフロアの段差はソファの背もたれのラインで違和感なく処理。
段差は視覚的な演出ではなく、役割を持たせて設けたスキップフロアです。
閉じずに守る、視線を制御したテラス空間

この住まいは、前後を道路に挟まれ、さらに遊歩道にも面する立地。
一般的には視線が気になりやすい条件といえます。
そこで採用したのが、“閉じない”という選択です。
壁で囲えば視線は防げますが、同時に景色や風、街とのつながりも失われます。
この土地の魅力は、遊歩道の緑や空の広がりにあります。それを取り込みながら視線だけを遮る方法として、テラスを計画しています。
奥行きは2.73m。屋根と天井を設けることで、雨に濡れにくい半屋外空間として使えます。
外から見ると室内の様子は分かりにくい一方、室内からは空と街路樹が見える。視線の向きと高さを丁寧に整えることで、BBQや子どものプール遊びも周囲を気にせず楽しめる場となります。
完全に囲う中庭ではなく、街とゆるやかにつながるテラス。視線だけを制御することで実現した空間です。
景色を食卓に取り込むダイニング

ダイニングには大きな窓を設け、植栽を一枚の絵のように取り込みます。
朝の光、揺れる緑、空の色。
食事の時間が自然と外の風景と結びつく場所です。
ダイニングテーブルはオリジナル製作。
地元の家具職人や県外の工房と連携し、空間の寸法や色味に合わせて制作しています。
家具までコーディネートすることで、住まい全体の完成度を引き上げています。
生活感を消し、使いやすさは残すキッチン

キッチンはメラミン仕上げとし、既製パネルではなく現場施工で貼り上げています。
継ぎ目や金具が目立ちにくい納まりとすることで、キッチンもインテリアの一部として自然に空間へ溶け込むように考えています。
キッチン奥のタイルについても同様です。
一般的な納まりでは、下地の合板とタイルの厚みが側面から見え、重たい印象になりやすい部分ですが、ここではアルミのステンレスアングルを用いて厚みを抑えています。
正面からも横からもすっきりと見えるように整え、細部まで空間の印象を崩さないよう配慮しています。
冷蔵庫やパントリーは視界から外しつつ、動線上で使いやすい位置に配置。
生活感を抑えながら、機能性も損なわない構成です。
床はチャコールグレー。
巾木は壁紙と同色とし、細く見せることで空間のラインをすっきり見せています。
目立たない部分の積み重ねが、空間全体の印象を形づくります。
細部に宿る設計思想
この住まいの印象を形づくっているのは、大きな構成だけではありません。
細部の納まりや寸法の選び方といった、小さな判断の積み重ねが空間の質を支えています。
階段の納まりに見る、線の整え方

一般的に階段は踏み板がまっすぐ伸び、その間に木が入る構成です。
しかしそのような納まりでは、踏み板の厚みや木の断面が強調され、重たい印象になりやすい部分でもあります。
そこで蹴込み側の縦のラインを強調し、ジョイント部分にはあえて溝を設けています。
これにより、一枚板を削り出したようなすっきりとした見え方になります。
滑り止めの溝が入った一枚板のようにも見え、線の整理によって階段全体の印象を軽やかに整えています。
玄関屋根と植栽がつくる外観の表情

玄関の屋根部分はバルコニーを兼ねた構成です。
建物形状だけでは無機質に見えやすい部分ですが、ここにオリーブを配置することで外観に柔らかな表情を加えています。
建築と植栽を分けて考えるのではなく、外観デザインの一部として捉えた計画です。
子ども部屋の形から考える使いやすさ

子ども部屋は6畳の広さですが、正方形ではなく長方形としています。
中央に空きが生まれやすい正方形に比べ、長方形だと家具配置の自由度が高まり、実際の使い勝手に配慮した寸法構成です。
将来の変化を受け止める寝室計画

寝室は7畳。その先に続く4.5畳の空間は、将来的に間仕切ることで一室として独立させることも可能です。
家族構成の変化を見据えた構成です。
小さなお子様がいる時期には家族が横に並んで眠ることも多いため、横方向にゆとりを持たせています。
間接照明は調光可能とし、時間帯や用途に合わせて光の表情を変えられるようにしています。
照明もまた、空間の印象を整える要素のひとつです。
小さな積み重ねがつくるデザイン

住まいの印象は、特別な形状や派手な要素だけで決まるものではありません。
納まり、寸法、光、素材の扱い。
そうした小さな選択の積み重ねが、シンプルで美しい空間を形づくります。
延床約32坪という限られた面積の中でも、遊び心や変化を持たせることは可能です。
とくに変形地のような条件では、画一的なプランでは対応が難しい場合もあります。
K.DESIGN HOUSEでは、その敷地に合わせて設計を行うことで、土地の個性を住まいの魅力へと変えていきます。